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長野地方裁判所諏訪支部 昭和44年(手ワ)15号 判決 1969年6月19日

理由

《証拠》によれば、原告主張の請求原因事実は、すべてこれを認めることができる。

右事実によれば、原告の本訴請求のうち、被告は原告に対し前記一の約束手形金並びに二(イ)の小切手金の合計金三三〇、〇〇〇円および右約束手形金二三〇、〇〇〇円に対する呈示の日である昭和四三年五月二四日から、二(イ)の小切手金一〇〇、〇〇〇円に対する呈示の日である同年五月二八日から手形法並びに小切手法所定の年六分の割合による法定利息を支払うべき義務あることは明らかである。

二、次に、二(ロ)の小切手金請求につき判断する。本件は、小切手の受取人たる原告が、振出人たる被告に対し償還請求権(遡求権)を行使するものであつて、その要件は、第一に適法な時期に小切手を支払人に対し呈示したこと(適法な支払の呈示)、第二に支払拒絶の事実を法定された方法により証明すること(小切手法第三九条)であるが、本件において、原告が右小切手を適法な時期は勿論のこと、その後においても支払のため全く呈示しなかつたことは原告の自認するところである。

してみると、原告は所持人として振出人である被告に対し償還請求権を失つたものと考えられるところ、この点に関し、原告は、本件小切手を呈示しなかつつたのは、被告との間に小切手呈示の義務免除の合意が成立したからであつて、かかる特約が存する以上、原告は被告に対し償還請求権を失わないと主張する。ところで前記のとおり、《証拠》によれば、原、被告間に原告主張のような特約の存することを認めることができるが、もともと小切手は振出人が支払人(第三者)に宛てて一定金額を支払うべきことを委託する形式の有価証券であつて、支払人は呈示期間内に呈示されたときに、はじめて右委託に基づいて支払われるべき小切手の性質(呈示証券性、一覧払性等)および小切手においては、約束手形の場合と異なり、振出人が単なる償還義務者にすぎないことに鑑み、その要件を規定する小切手法第三九条は強行法規と解すべきところ、本件においてこれをみるに、原、被告間の前記のごとき呈示自体を免除する旨の特約は右趣旨に反するところであつて、これを無効なものといわなければならない。

そうだとすると、原告は前記のような理由があつたにせよ、小切手を全く呈示しなかつた以上、振出人である被告に対する償還請求権(遡求権)を失つたものというべきであるから、本訴請求のうち、この権利の存在を前提として、被告に対し二(ロ)の小切手三〇〇、〇〇〇円とこれに対する振出日の翌日である昭和四三年六月一一日から商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由がないものといわねばならない。

三、よつて、原告の本訴請求を右の限度において正当として認容すべきものであつて、その余の請求を失当として棄却する。

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